第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
扉が開かれた瞬間、目の前に紅蓮の炎が映りこむ。
── なんだよ、これ……。
その光景に驚き、泣き声を止めたハイリアと共に、ジュダルもその場に立ちつくした。
暗闇の中で煌々と輝く炎は、村を赤く染め上げて民家や畑を呑み込み、黒煙をたてていた。
燃え上がる民家の前には、動かない死骸がいくつも転がっている。
すぐ側の家の前では、目を見開いたまま死んでいる男が、助けを求めるようにこちらへ腕を伸ばしていた。
その隣には、小さな子どもが女に抱えられて力なく倒れている。どこかで見覚えのあるガキだった。
そこへ燃え崩れて落ちてきた民家の屋根が、その男や子どもの姿を呑み込んで、紅蓮の中に黒い影を揺らめかせる。
呆然と立ちつくすハイリアの目が見開かれ、その視線が徐々に足元の方へと下っていった。
家の前に倒れ込んでいる一つの人影に気づき、ゆっくりとそれに近づいていく。
地面に横たわるそれは、変わり果てた婆さんの姿だった。
生気がなくなった身体からは、映えるような赤が流れ出し、土を染め、衣類も同じ色に染めている。
『おばあちゃん……、おばあちゃん! おばあちゃん! 』
婆さんに駆け寄ったハイリアが身体を揺するが、何度呼びかけても返答はなく、身体はぴくりとも動かない。
『おばあ、ちゃん……? 』
動かない婆さんから滲み出た赤い血が、ハイリアの白い手と衣類を赤に染めていた。
べったりと肌に付いたその色を見て、ハイリアはようやく婆さんが死んだことを理解したようだった。
血に染まったその手を見つめて、がたがたと震えあがる。
『うわぁああん、おばあちゃん! 』
ハイリアの悲痛な泣き声が、赤い空に響いた。
わんわんと泣き出したハイリアから大粒の涙がこぼれ、もう動かない婆さんに降り注ぐ。
大声で泣き叫ぶその声だけが、炎に包まれた村に響いていた。
パチパチと火花が舞い散り、辺りを包む紅蓮の炎がハイリアの身体さえも呑み込もうと迫る中、大きく揺らめいた炎の奥に黒い影が映りこんだ。
徐々に近づいて来るその影が、人のものだと気づきジュダルは目を見張った。