第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
暗闇に閉じ込められたことに不安を感じたのか、すすり泣くハイリアの声が聞こえてきたが、押し殺された声は徐々に小さくなり途絶えていった。
やがて闇の中でも木目の扉が見えるようになった頃、ハイリアは腕輪を握りしめたまま、膝を抱えて眠りについていた。
泣き疲れたようだった。
周囲の音は何も聞こえない。
気持ち悪いほどの静寂だけが続いていた。
時間がどれだけたったのか感覚がつかめなくなってきた時、眠りについていたハイリアの身体がもぞもぞと動き始めた。
ぼんやりとその瞼が開かれる。
『おばあちゃん……? 』
丸めた身体を起こして辺りを見渡したとたん、ハイリアの表情が固くなった。
『おばあちゃん……? なんで……、まだいないの? 』
婆さんがいないことに不安を感じたらしいハイリアが、扉を開こうと押していた。
しかし、重石がのせられた扉は動かない。
いくら力をこめても動かないその扉に、ハイリアの目に涙が滲んでいった。
『おばあちゃん……? ねぇ、おばあちゃん! 』
未だ暗闇に閉じ込められている状況を理解したハイリアが、わっと泣き出した。
『あけてよー! おばあちゃん! あけてよー! 』
小さな手が扉を激しく叩く音と、泣きじゃくる声が狭い空間に響きわたる。
ガンガンと音とたてながら、ハイリアが何度も拳で扉を叩くと、ようやく外で水がめが割れた大きな音がした。
扉を押し開けたハイリアが、水がめの破片が散らばる床を跳び越えて、薄暗い階段を駆け上がる。
肘にかかっている銀の腕輪が揺れてぶつかり合い、高い音が鳴らしていた。
『おばあちゃん! どこー! どこにいるのー?! 』
きょろきょろと家の中を見渡し、何度も婆さんを呼びかけるが返事はない。
居間を見て、台所へと走り、寝室の扉を開け、そのどこにも婆さんの姿がないとわかると、ハイリアは泣きながら家の外へと飛び出した。