第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
静寂を切り裂いたのは、何かの騒がしい音だった。
ジュダルが目を開いた闇の中で、外を駆けまわる幾人もの足音が聞こえ、遠くから誰かの悲鳴が響いてきた。物が割れ壊れるような音もする。
── なんだ……?
暗闇に響く不穏な物音に、異変を感じてハイリアも目を覚ましていた。
布団から這い出て、きょろきょろと辺りを不安そうに見渡している。
その隣で眠っていた婆さんも異変に気付き、身体を起こしていた。
周囲の音を聞くなり表情を硬くし、慌てた様子で側にいるハイリアを抱きかかえる。
『おばあちゃん……っ! 』
『なあーに。まあーた、盗賊が来たんじゃろうて……。大丈夫じゃあ、村の衆がちゃんと追い払ってくれるわい。おまえさんが心配することなんて何もないんじゃ』
そう言って婆さんは、ハイリアを抱えてどこかへ駆けて行く。
そのあとを追いかけるようにジュダルも黒ルフの姿で飛び出した。
婆さんに抱えられたハイリアのなびく髪をどうにか捕えて、その身体につかまりとまる。
薄暗い階段を駆け下り、貯蔵庫のような場所にたどり着いた婆さんは、そこにあった空の水がめをずらすと、その下に作られた小さな木目の扉を開いていた。
収納スペースにも思えるその中に、抱きかかえていたハイリアを下ろし、腕にしていた二対の銀の腕輪を外してハイリアに手渡した。
不安げに揺れ動くブドウ色の瞳が婆さんを見つめ、小さな手が銀の輪をしっかりと握りしめる。
『いいかい。すぐに戻るから、おまえはこの中でじっとしておるんじゃよ』
『おばあちゃん……、こわいよ……っ! 』
泣き出しそうな声でハイリアが言う。
『大丈夫じゃあ。そのお守りが絶対におまえさんを守ってくれるわい』
婆さんは柔らかく微笑んで、ハイリアの頭を優しく撫でた。
『安心せい、いつものようにすぐ出られるはずじゃあ。そこで待っているんじゃよ。音を立ててはならん。そこで、じっとしているんじゃ』
扉はすぐに閉じられて、視界は闇に包まれる。
ゴトゴトと音がして、扉の上に何かが置かれたようだった。
恐らく、ずらしていた水がめが置かれたのだろう。