第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
『これ、ハイリアもらっていいの? 』
『いいんじゃよ、それは元々おまえさんの物だしのう。明日渡そうと思っておった物じゃが、今でもよかろうて……。
大事にするんじゃよ。おまえさんだけの、世界にたった一つしかないお守りなんじゃから』
婆さんの言葉に励まされたのか、浮かない顔をしていたハイリアの表情が明るくなっていった。
もらった銀の腕輪を嬉しそうに、ぎゅっと握りしめる。
『ありがとう、おばあちゃん! 』
微笑んだハイリアが銀の腕輪を腕にくぐらせると、子どもにはまだ大きすぎる腕輪が、肘の方までするりと通り抜けていった。
思うようにつけられない腕輪を見て、幼いハイリアの眉間にしわがよる。
『う~っ……、おばあちゃん、これおおきいよー……』
『仕方ないわい。それは大人用だからのう』
『え~っ! これもおとなじゃないと、できないのー? 』
『大丈夫じゃよ。おまえさんだって、すぐにつけられるようになるわい』
『う~ん……、でも、あしたまで、おばあちゃんがもっててー』
『おや、いいのかい? 』
『きょうは、トントンがいいのー! 』
むすっと頬を膨らませたハイリアを見て、婆さんは可笑しそうにくすくすと笑っていた。
『そうかい、そうかい。じゃあ明日までは、ばばが持っておるのう。さて、一緒に寝ようかのう、ハイリア』
ハイリアが寝室の布団に入ると、婆さんは小さな体をトントンと優しいリズムを刻んでたたきながら、側で子守唄を口ずさんでいた。
どこか懐かしいような不思議な気分になるその歌は、様子を眺めていたジュダルの眠気をも誘い、静かな部屋に響きわたる。
婆さんの手を握りしめながら歌を聞いていたハイリアが、ウトウトし始めると、つられるようにジュダルの瞼も重くなっていった。
やがて温もりのような、心地よいまどろみの中に歌は消えていき、何も見えなくなった。