第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
── おまえ、そのせいで魔法の力が奪われるんだぜ? 勝手な大人の都合でよぉ……。
どうにも変な気分だった。
これはハイリアの過去だというのに、もやもやとするわだかまりが気持ち悪い。
あいつが魔導士でなくなることは決定づけられていることなのに、許せないような苛立ちを覚えるのだ。
今のあいつでなければ、恐らく迷宮で出会うこともなかっただろうというのに……。
『あしたは、ムトちゃんとくるかなぁ~? 』
絵本を閉じたハイリアが、婆さんを見つめていた。
『だいじょうぶじゃよ、あの若造たちは旅に慣れている者達じゃあ。約束通り、村に帰ってくるはずじゃ。さあ、おまえさんは、そろそろ寝る時間じゃな』
『え~……、もう、ねなきゃだめー? 』
不満そうにハイリアが頬を膨らませた。
『そうじゃあ、旅立ちの日に寝坊なんてしたら笑われてしまうわい』
『うっ~……、じゃあ、トントンしてくれなきゃ、やぁーだ……』
編み物をする婆さんの服を握りしめ、駄々をこねながらハイリアがしがみつく。
『はいはい、わかったわい。そんな調子で、明日から一人で眠れるのかえ? 甘えん坊のおまえさんは、ムト殿たちに泣きついて困らせそうじゃのう……』
『……がんばるもん。ハイリア、おねえさんになれるもん』
そう言いながら、べったりと離れようとしないハイリアを、婆さんは優しげな眼差しで見つめ、真っ白な髪を撫でていた。
『……ハイリア。おまえさんに、いいものをやるわい』
『いいもの……? 』
『そうじゃあ、とってもいいものじゃ。手を出してごらん』
言われるままハイリアが手を差し出すと、婆さんは袖元から二対の腕輪を取り出して、それを握らせた。
今のあいつが腕にはめている、銀の腕輪だった。
『お守りじゃよ、おまえさんのな』
『おまもり……? 』
『そうじゃあ、綺麗じゃろう? それはのう、おまえさんの親御の忘れ形見に、おばばがつよ~い、おまじないをかけたものじゃ。不安になった時、寂しくなった時、握ってごらん。きっとおまえさんに力をくれるはずじゃあ』
銀の腕輪を見つめるハイリアに、婆さんが微笑んだ。