第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
『そうじゃあ。どの町に行っても、どんな相手に出会ってもじゃ……。ルフと遊んだり、話したりしてはならん。おまえさんのそういうヒトばなれした行動だけが、おばばは心配じゃよ……』
『だいじょうぶだよ。ハイリア、ちゃーんと、おねえさんになるもん。ムトとおべんきょーして、おっきくなってー。おばあちゃんのおうちに、はやくかえってくるんだもん! 』
にっこりとハイリアは微笑んだ。
その様子を見て、婆さんも目を細めて微笑む。
『……そうじゃな。おまえさんが頑張ると言ったんじゃからのう……。ばばが心配しすぎても駄目じゃな……』
『そうだよー。ねぇ、はやく、えほんよんでよー! おばあちゃん! 』
『わかったわい。ほら、早くそのルフを放しておやり』
『はぁ~い』
指を開いて、白いルフがハイリアの手から飛び立ったのを見ると、婆さんは静かに本を読み始めた。
開かれた色彩豊かな絵本に書かれていたのは、真っ白なルフの話だった。
野をこえ、山をこえ、空へとルフが旅立ち、流れに帰り、また旅立ち、めぐり巡って流れに帰る。
ただそれを繰り返す単調な話だ。
色鮮やかな絵柄さえなかったら、つまらなくも思えるその話を、幼いハイリアは嬉しそうにページをめくりながら熱心に見つめていた。
── のんきなもんだな……。
黒ルフの姿で部屋の四隅にたたずむ、ジュダルは思った。
色鮮やかな絵柄に気をとられている幼いハイリアは、何も知らないのだ。
二日程前の明朝に村をたって行った、ムトと婆さんが交わした本当の約束事も。
そのために、寝ている間に自身の身に何が起きたのかも。
あの男が施した鍼治療とやらで、マゴイの流穴が封じられたハイリアは、あれから誰も傷つけてはいない。
それは魔法の力が抑えられていることを意味している反面、その力が奪われていることも意味している。
それなのに、こいつは明日迎えにくるだろうムトを信じて疑わない。
素直にただ、暴走するマゴイを治める力を学ぶために、あの男たちと旅に出るのだと思っている。