第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
家の中で灯るランプのかがり火が部屋の中を照らし、ぼんやりとした明るさに包まれていた。
部屋の隅に座り込んでいる小さな影が木目の床に映し出され、もぞもぞと動いている。
髪も肌も白い子どもが、書物が並ぶ低い棚の中に腕を突っ込んで何かを探しているのだ。
ガタガタと音を鳴らす幼いハイリアの表情がパッと明るくなり、棚の中から厚みの薄い大きな本が引っ張りだされた。
色鮮やかな表紙の絵本だ。
端も擦り切れて汚れたその本を腕に抱え持つと、ハイリアは居間で編み物をしている婆さんの元へと嬉しそうに駆けて行った。
『おばあちゃん、えほんよんでー! 』
きゃっきゃっと高い声で笑うハイリアが、婆さんの膝元に跳びのった。
『また、これでいいのかい? おまえさんは、本当にこの本が好きじゃのう』
『だって、これ、「え」がきれいなんだもん。すきなの~! 』
色鮮やかな絵本を婆さんへ手渡すと、ハイリアは側に寄って来たルフの一つを掴み取り、籠のように囲い込んだ手の中で羽ばたく姿を指の間から覗き見ていた。
『まあーた、おまえさんは……。まさか、おばばに隠れてそうやってルフに悪戯しておらんじゃろうな? 』
なかなか鋭い婆さんの言葉に、幼いハイリアの表情が引きつった。
『し、してないよ~! だって、おばあちゃんと、おうちにいるときだけって、やくそくしたも~ん。おそとで、おともだちとあそぶときは、ちゃ~んと、しらんぷりしてるよ~! 』
目を泳がせながら、無駄に明るくそう言って取り繕ったハイリアの様子を見て、婆さんはため息をついていた。
『……そうかい。それなら、いいんじゃが……。いいかい、ハイリア。この村を出て行ったあとも、ばばとの約束は続けるんじゃよ? 』
『うん! ルフのことは、みんなに「ないしょ」なんでしょー? 』