第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「驚いたかい? 呆れるだろう? こんな身体になっても、まだ生きていられるなんてさ……。まあ、そんなに長くは持たなそうだけどね……」
笑みを浮かべた少年の身体に、ピシピシと細かな亀裂が入る。
「そんな……、どうして……!? 」
今にも命がつきてしまいそうな少年に、ハイリアは駆け寄った。
震えそうになる手を伸ばし、ひび割れた石のようなその身体をそっと抱え起こした瞬間、彼の胸の一部に大きな亀裂が走り、目を見張る。
慌てて崩れ落ちそうになる彼の身体を支えたが、掴んだ黒い破片はボロボロと指の間をすり抜けて落ちていった。
「どうしよう……、どうすれば……! 」
壊れていくその身体を止められなくて、涙が滲み出た。
瞳を潤ませるハイリアを見て、少年は困った様子で笑みを浮かべていた。
「弱ったなぁ……、まさか、本当に何も覚えていないのかい? そんな泣きそうな顔をされると、君に倒された僕は、どんな反応をしていいかわからなくなるじゃないか……」
「私に、倒された……? 」
「だから、君が僕を倒したのさ……。黒くて大きな化け物を倒した覚えは? 君に放った青い光の弾は覚えていないのかい? あー、そういえば覆面のおっさん達も君が倒したんだっけ……」
呆れた調子で少年が言った。
「私が……? 」
少年に言われたとたん、途絶えていた記憶の断片が、闇の奥から浮き出すようにぼんやりと少しずつ脳裏に蘇ってきた。
杖を構える覆面の男たちが切り裂かれている姿が見える。
叫ぶ間もなく、従者が楕円の人形へと変わり、床に転がり落ちていた。
彼らを切り裂いている、これは誰だ?
咆哮を上げた黒いジンは、青白い光の弾を放とうと大きく口を開いていた。
放たれた青白い閃光が近づき、青い炎が燃え上がる。
その中に光った銀の双剣を握る白い腕が見えて凍り付いた。
黒い皮膚を切り裂き、巨大な四肢を分断しているこれは……。
「私が……、やったの……? 」
恐ろしい答えに血の気が引いていった。