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【マギ*】 暁の月桂

第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕


「これ……、いったい……? 」

壊された牢獄の中には、牢屋と呼べるものがすべて消え失せていた。

鉄格子の囲いも、隔たりとなる壁も、錠も鎖も何もない。

あるのは、焦げ付いた痕が残る何もない灰色の部屋と、いくつか転がり落ちている黒くて大きな炭のようなものだけだ。

巨大な黒いジンの姿はなく、それを取り囲んでいたはずの覆面の従者たちの姿でさえ、一人も見当たらない。

すぐ側に落ちている、ひび割れた大きな炭のようなものには、なぜか刺されて切り刻まれたような痕が無数に残っていた。

端にいくほど不自然に鋭く枝分かれしているそれが、何かの爪だとわかったとたん、それが指であり、巨大な腕なのだと気づいて、ハイリアは息をのんだ。

枯れ果てた巨木とも、ひび割れた炭とも呼べるようなものへと変化しているコレは、黒いジンの腕だ。

「なにこれ……。いったい何があったの?! ねぇ、 アイム! 」

『…………』

恐ろしくなって銀の腕輪を見つめたが、そこに浮かぶ金色の瞳は伏していた。

まるで答えたくないとでも言うように、アイムはこちらを見ようとせず、返答もしない。

── 何があったの……?

必死に思い出そうとしても、記憶が途中で途絶えている。

あの時、ムトたちを殺したのがこの組織だとわかったとたん、怒りが収まらなくて、何かの感情に引き寄せられて……。

そう、胸が熱くて、苦しくなるような……。

── アノ感情ハ、何ダ……?

記憶の途絶えたその瞬間を思い出そうとした時、突然、声が響いた。

「君がやったのさ……、覚えていないのかい? 」

聞き覚えのある声にハッとして振り返ると、二つの瞳がこちらを見つめていた。

ひび割れた黒い石のようなものから覗く双眸が、横たわる褐色の少年のものだと気づき、ハイリアは言葉を失った。

浅い呼吸を繰り返す、石のような少年の身体に手足はない。

黒くひび割れた胴体は、胸から上しか存在せず、その身体は今にも崩れてしまいそうだった。
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