第24章 緋色の夢　〔Ⅸ〕

光弾丸を放つ黒いジンに、炎を宿す銀の刃が振り下ろされ、青白い閃光と青の炎がぶつかり合う。

眩い真っ白な光が牢獄を包みこんだとたん、爆発音がとどろき響き、熱を含んだ爆風が辺りに吹き荒れた。

熱風は牢屋の囲いを溶かし、繋ぎ目も、隔たりとなる石壁も、全て破壊つくしていく。

光がやみ、風がやみ、静まりかえった時、囲いの消えた灰色の部屋に立っていたのは、二つの影だった。

巨大な黒きジンと、白い少女。

その一方がぐらりと倒れこむ。

肢体をバラつかせながら崩れたのは、黒いジンの方だった。

分断された巨大なジンの腕の一つが、ハイリアの足元に転がり落ちる。

黒ルフを湧き上がらせながら、まだ動こうとするその腕に目を移すと、ハイリアはそこへ向けて剣を振り下ろしていた。

『もうお止め下さい、我が王よ！　』

声を張り上げるが、ハイリアは何かに憑りつかれたように地面へ刃を振り下ろす。

何度も、何度も。

見たこともない邪悪な笑みを浮かべながら。

『やめるのです！　やめて下さい！　』

ぴくりとも動かなくなった黒いジンの腕に、ハイリアは尚も剣を振り上げ続けていた。

残忍なハイリアの姿に、アイムは声を震わせた。

何度も止めようと呼びかけるが、声が届かない。

動かない黒く巨大な腕が揺れ、新たな傷が刻まれる。

望まない刃が、また振り下ろされていた。

『もうやめなさい！　ハイリア！！　』

何度目かになるアイムの叫び声に、ハイリアの瞳が大きく見開かれ、剣の動きが止まった。

胸に宿る八芒星から溢れていた黒い闇の輝きが消え失せて、ハイリアから湧き上がっていた黒く濁り染まったルフが治まっていく。

「ア、イム……？　」

『お願いですから、もうおやめ下さい……。全て、終わったのですから……』

振り上げていた剣を下げたハイリアの瞳に、ゆっくりと光が舞い戻っていった。

魔装が解けていき、銀の刃が腕輪にもどる。

力を失い、倒れ込むように膝をついて座り込んだハイリアは、何が起こったのかわからない様子で、ぼんやりと辺りを見渡していた。

徐々に周囲の惨状に気づいたハイリアの表情が、みるみる青ざめていく。