第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
凄まじい爆発音が響きわたり、熱い風が巻き起こったが、ハイリアに痛みはこない。
恐る恐る目を開けると、いつの間にか、二人の『銀行屋』の防壁魔法に身体が覆われていた。
「まったく、この形態は力ばかりでおつむがない……。すっかり我らのことを忘れているようですな」
「お怪我はありませんかな、ハイリア殿? あなた様を失うわけには、いきませんからねぇ」
杖を掲げる覆面の従者たちが言う。
攻撃をしてきた黒いジンは、前陣に立つ六人の従者の杖によって、動きを封じられていた。
もがき動くその身体には、黒い鎖のようなものが幾重にも巻かれている。
それが従者の杖から湧き出す、無数の黒ルフだとわかった時、焦げた匂いが鼻を刺した。
焼けた石畳が見えて、辺りの景色が一変していることに気づく。
自分を囲む防壁の外側は、光弾丸が通った跡に沿って床がえぐれ、爆発の衝撃で壊れた石壁は、牢獄の隅に押しやられて瓦礫と化していた。
牢獄を囲む鉄格子は、光弾の熱でねじり溶け、変形した先端の一部が小さな炎を灯している。
揺らめき動く赤い炎に、ハイリアの記憶が揺すられた。
── これと似た光景を、私は知っている……。
空を輝かせた青白い閃光。
押しやられた瓦礫。
視界を覆いつくすような赤い炎。
倒れる屍の中心に立っていたのは、異様な姿をした黒い化け物で……。
── まさか……、まさか……!?
思い出された闇の情景にハイリアは凍りついた。
「おや、どうされましたかなハイリア殿? 顔色がすぐれませんぞ」
「お気に召しませんでしたかな? お優しいですからなぁ、あなた様は。気にされる必要など何もないのですよ。あの者は望んで我らのジンとなったのですから」
覆面の男の声を聞きながら、より鮮明になっていく記憶の断片に身体が震えた。
砂漠を超えた先にある小さな村。
キャラバン隊で着いたあの村は、炎に包まれ死の村と化していた。
仲間の命をも奪ったあの黒い化け物は、虚ろな目で黒い刀剣を掲げて光の玉を灯していなかったか?
爆風が起こる手前に見た、あの青の閃光は忘れもしない。
肌を砂塵が裂いていく爆風も、遠くから聞こえた恐ろしい咆哮も。
黒い化け物から溢れ出していた、真っ黒なルフが脳裏に蘇る。