第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
横たわる視線の先で、褐色の少年が地面に落ちた黒剣に腕を伸ばしていた。
漆黒の長剣が持ち上げられる。
手にした黒い刃を見つめ、少年は笑みを浮かべていた。
「始められるのですかな? 」
「覚悟はお決まりになりましたか? 」
側を囲む覆面の男たちの声に、少年が振り返る。
「覚悟なんて、もうとっくに決まってるさ。見てなよ、君にも僕に力が宿る瞬間を見せてやるからさあ! 」
剣の切っ先をこちらに向けて、褐色の少年が嬉しそうに口元を吊り上げて笑った。
黒の長剣を高らかに掲げ上げ、迷うことなくその胸に剣の刃を突きたてる。
「何やって……!? やめて……! 」
とんでもない光景に目を見張る中、少年は突き立てた剣を胸に押し込もうと、柄をもつ手に力を入れていた。
「やめて! そんなことしたら、あなたが死んじゃう……! 」
必死に声を張り上げて叫ぶけれど、少年にはまるで声が届いていないようだった。
今すぐにでも止めたいのに、身体が動かない。
柄をもつ少年の手が勢いよく動く。
「やめてーっ!! 」
張り裂けるようなハイリアの叫ぶ声が響き、黒い刀剣が少年の胸を深々と貫いた。
少年の身体から真っ赤な鮮血が溢れ出し、牢獄に赤の水だまりがじわじわと広がっていく。
「宿れ、僕に力を! 」
口元から血を伝わせた少年の笑う声が、牢内に響きわたった。
血に染まった少年から真っ黒なルフが湧き上がり、黒ルフたちが闇の金属器に惹きつけられるように、少年の身体へ呑み込まれていく。
少年の身体に変化が起こったのは、それからだった。