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【マギ*】 暁の月桂

第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕


「あ~あ、可哀想に……、落ち込んじゃった? ショックだったよね。
 でも、 残念でした。君に諜報活動は向いてないよ。優しい心なんて捨てなくちゃ……。人のことは、もっと疑って行動しないとね。まあ、今更何を言っても無駄だけど」

少年はそう言って微笑み、ハイリアの肩からナイフを抜き取った。

熱い痛みが走り、左肩から生温かいものが肌を伝う。

毒が回りきったらしい身体は、少年の拘束から解放されたのに、動かそうとしても指先さえ自由にならなかった。

悔しさに視界が滲む中、褐色の少年が倒れるハイリアの頬に触れ、顔を覗き込む。

肌を撫でられるぞわりとする感触が、ひどく気持ち悪いのに顔を背けられない。せめてもの抵抗で目を逸らした。

「それにしても、侵入者にしては随分と可愛い子じゃん。こんな真っ白で綺麗な子、初めて見るなあ。処分しちゃうくらいなら僕にちょうだいよ、この子」

「駄目ですよ。その王は『マギ』のお気に入りですし、我らの大事な被験体ですから」

── わたしが、被験体……?

男たちの言葉に困惑する中、褐色の少年が仕方なさそうにため息をつく。

「なあーんだ、つまらないな。じゃあ、この子が例の『マギ』のお気に入りの王なんだ。残念だなあ、実験が成功したあとに、僕のものにでもしちゃいたかったけれど……」

そう言って少年は、名残惜しそうにハイリアを見下ろすと、笑みを浮かべて立ち上がった。

「まあいいや。君みたいに可愛い子に、僕に力が宿る瞬間を見てもらえるなら、それもいいかな」

側を囲む覆面の従者たちをかきわけて、少年が背を向けて歩いて行く。

その先の地面に転がる黒い長剣が見えて、ハイリアは凍りついた。

せっかく少年から離した闇の金属器が、彼の手に渡ってしまう。

「だめっ! やめて……! 」

止めたい思いで、渾身の力を腕に込めたが、倒れた身体は少し持ち上がっただけで、すぐにグラリと崩れて床に伏してしまった。

傷付けられた左肩がズキズキと痛む。

「その身体でまだ動かれるとは、まったく呆れたお方ですなあ……」

「あまり無理をなされますな。数時間は動けぬ毒なのですから」

「せっかくの機会なのですから、ハイリア殿も闇の金属器の実験をご覧下さい」
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