第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「はじめから、怪しいとは思っておりましたぞ」
「金属器の実験は、八人で行うことが組織で決まっておりましてな。九人目の貴方様がいた時点で、我らの中に一人『侵入者』がいることはわかりきっていたのですよ」
「今の我らに『新入り』など一人もいないですしね。『新入り』とは、『侵入者』かもしれない見知らぬ者に対して使う、我らの造語ですな」
「それに異議も唱えずに素直について来られた時点で、貴方様が『侵入者』であることは、ほぼ確定しておりました」
「あなた様にお付き合いして、騙されたふりをしているのは案外面白かったですがね。おかげであなた様を、この籠の中まで誘導することができましたし」
蔵書を共に運んだ『銀行屋』の男がにんまりと笑っていた。
「侮られたものですなぁ。我らのすべてを欺けるとお思いでしたか? 」
「昨日の侵入で、我らが何も気づかなかったとでも……? 」
「透視魔法を何度か行い、あなた様が『神事』の際に侵入されただろう事は、大筋の予想がつけられていたのですよ」
「君は初めから袋の鼠だったって言っただろう? 気づいてなかったのは、君だけなんだよ」
褐色の少年が得意げにくっくっと笑う。
「そんな……」
── うそ、でしょう……? はじめから、騙されていたのはこっちだった……?
危険は承知の上だった。
油断できない相手だってわかってもいた。
── でも、こんなつもりじゃ……。これじゃあ、私……何のために……?
必死になってここまでやって来たことのすべてが、ガラガラと音を立てて崩れていくような感じがした。
「しかし、本当に興味深いですな。堕転されていない貴方様が、あの扉を越えて来られるとは」
「扉を越えるには、黒ルフの暗黒を持たぬ限りは不可能ですのに……」
「いったいどんな方法を使われて侵入されたのですかな? 是非とも知りたいところです」
「こちらを探られる目的は何なのです? まさか、あなた様は聖宮の手の者で……? 」
「まあまあ、皆さん落ちついて下さい。そんなことは、これから調べればわかることですから」
取り囲む男たちが口々に言ったが、さっぱり頭に入らない。
絶望感が身を包み、じんわりと涙が浮かんでいた。