第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「やっと効いてきたみたいだね。結構、強力な痺れ薬なのに時間がかかるなんて、毒に耐性でもあるのかい? 」
にやりと笑った少年に青ざめた。
これではマゴイで攻撃したところで、身体の自由がきかない。
パタパタと駆けてくるいくつもの足音が聞こえ、焦りを感じた。
── どうにか反撃しなきゃ……! でも……!?
考える間もなく床に押さえつけられたハイリアの瞳に、覆面の従者たちの姿が映りこんだ。
「まったく小癪な手を……」
「あんな手に我らが騙されるとは……」
「あなたまで逃げ出した時は、一瞬裏切られたのかと焦りましたがね」
じろりと覆面の男が、褐色の少年を責めるような視線を送った。
「逃げないさ。僕の目的は、力を手にいれることだって言ったじゃないか。なあ、これでいいんだろう? 裏切り者が一人いるから、見つけたら殺さずに捕らえろって話だったよね? 」
「はい、十分でございますよ。さすが、元機密部隊におられた者ですな。あなたのおかげで、随分と楽に捕えることができましたよ」
「さて、そろそろ正体を現して頂きましょうかな、新入りの方……」
覆面の男の大きな手が目の前に迫り、とっさに顔を背けたが、為す術もなく顔を覆い隠していたクーフィーヤを剥ぎ取られた。
長い白髪がほどけて地面に落ちる感触がした。
「やはり、あなた様でございましたか……、ハイリア殿」
そう言った覆面の男を、ただ呆然と見上げることしかできなかった。
「なんだ、知ってる子なのかい? それで『殺すな』ってことだったのか? 」
「ほかに考えられる該当者がいませんでしたからねぇ……」
「それにしても、貴方様自らこちらへ干渉されてくるとは、我々も予想外でしたよ」
「思っていたよりも、随分と危険なお遊びがお好きな方のようですな」
こちらを見下ろして、覆面の男たちが笑みを浮かべる。
「いつから……、気づいて……? 」
まるで、わかっていたかのような口ぶりに動揺を隠せないまま、ハイリアは覆面の従者たちを見つめた。