第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
足がもつれて跳ね上がり、視界がくるりと回転する。
背中に重い衝撃を感じた時、目の前には馬乗りになっている少年の姿と、喉元に向かって振り下ろされたナイフがあった。
とっさに刃の攻撃を止めようと、彼の手を掴んで押し込んだが、勢いのすべては殺せない。
反らせた刃が首筋をかすって左側に落ち、小さなナイフが石床を叩く高い音が響いた。
薄く切れた皮膚がひりひりと痛む。
「どうして……?! 」
なおも首筋にナイフを埋め込もうと力を入れてくる少年の力に抵抗しながら、ハイリアは目を見開いた。
「どうしても何も、僕はここへ来た時から彼らの仲間なのさ。僕を可哀想な人とでも思った? 君の意見を聞き入れたとでも思っていたのかい? 」
少年はにっこりと笑みを浮かべると、動揺しているハイリアの肩側にナイフを滑らせた。
急に力の方向が変わったせいで、手首がねじられる。
刃を押しとどめようと力をこめたが、上手く力が入りきらずに押さえる手が引きずられた。
止められないナイフの切っ先が左肩に埋まり、ゆっくりと突き刺さる。
「くぅっ……! 」
焼けるような鋭い痛みに思わず呻いた。
「君について行った瞬間から、隙をうかがっていたんだよ。武術は手練れのようだけど、油断しすぎだね。君は初めから袋の鼠だったんだ」
肩に埋め込まれたナイフが、さらに深く突き刺さろうと押し込まれる。
それをどうにか押しとどめながら、この状況から抜け出そうと身体をねじらせたが、馬乗りになっている少年に攻撃の主軸となる関節を押さえられていて、びくともしなかった。
── この子、ただの素人じゃない!
さっきの技といい、確実に身動きを封じる術といい、どうやらこの少年には武術の知識があるらしい。
「あははっ、やめときなって。君にもう勝ち目はないんだからさ。そんな弱い力じゃ、僕の組手からは抜け出せないよ」
黒ルフを飛び交わせながら、少年が笑う。
── だったらマゴイを!
ナイフを持つ少年の手に向けてマゴイを放とうとして、指先の感覚がおかしいことに気づく。
少年の手が上手くとらえられない。
思うように力が入らないのだ。
必死に腕や足に力を込めるが、不自然なだるさが感覚を麻痺させていた。やけに身体が重い。
── なんで……!?