第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「いっけぇー! 師匠直伝、闘魂の一撃!! 」
光り輝く長剣を振るい、力いっぱいぶん投げた。
剣はまっすぐに従者たちへ向かい、その刃を一層強く輝かせる。
「ほら、早く!! 」
ハイリアは、驚いている少年の腕を引いて駆け出した。
眩い剣の光が強く点滅し始める……!
「これはいったい!? 」
「何が……!? 」
従者たちがざわめき、一斉に防御をとる中、白の光は急激に弱くなり消えていく。
光の失せた黒剣が、彼らの手前で落ちて床の上で回転し、金属が転がり擦れる情けない音を響かせていた。
うんとも、すんとも言わなくなった長剣の姿に、『銀行屋』たちは戸惑っているようだった。
闘魂の一撃。またの名を『逃魂の一撃』という。
ただマゴイを刃の表面に宿しただけの、たいした攻撃力もない見せかけの技。
ようはハッタリなのである。
いかに気合をいれて、格好良く剣を飛ばすかがコツだと、長剣の師匠、ジファールは言っていた。
「な、何をしているのです! 早く捕まえるのです! 」
何も起こらない黒剣に気づき、唖然としていた従者たちが、慌てて声を張り上げた。
隙は作れた。あとはこの間にどれだけ逃げる距離を稼ぎ、追っ手に対処しながら逃げ切れるかだ。
「すごいな、あんた女だろう? その細い腕で、よくあんな大ぶりの剣を投げ飛ばせたね。僕、君みたいな力強い女の子、嫌いじゃないよ」
感心するように褐色の少年が言う。
「無駄口はいいからついてきて! 」
足に力を入れながら、スピードをあげて腕を引く少年に言い放つ。
奥に見える牢屋の出口はもうすぐだ。
「本当に勇ましいなぁ……。でもさ、君はもう少し、人を疑う心を持ったほうがいいね」
「え? 」
後ろから声が聞こえたとたん、少年の腕を掴んでいた手が強く引かれて、ハイリアの身体が大きく傾いた。