第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「逃げる?! 僕はここで力を得るために……! 」
「命を奪われるかもしれないことが、力を得る方法なの? ふざけないで! 」
ぴしゃりと言ってハイリアは戸惑う少年の腕を掴むと、その手を引いて駆け出した。
牢屋の外へと足を向けたとたん、杖を構える覆面の従者たちが前に立ちふさがり長剣を構える。
「ほう、逃げるですと……? 」
「せっかくの被験体を逃がされては困りますなぁ」
「我らから簡単に逃げられるとお思いで? 」
『銀行屋』は、全部で八人。
こんな人数の魔法使いと戦ったことはないけれど、やるしかないだろう。
戦いにくい相手ではあるが、突破口がないわけではないのだから。
魔法使いとの戦い方は、稽古場に悪戯をしかけてくるジュダルのおかげで、慣らされてはいる。
対策法は攻撃するなら接近戦にもちこみ、防御魔法を打破すること。そうでなければ、遠隔からの魔法攻撃を避けて逃げ切ること。
ただの武具では何もできないかもしれないが、自分には金属器がある。
アイムの力を借りれば、相手が魔法使いだろうと、後ろの少年を連れて脱出することもできるだろう。
相手の力の一部となりそうな闇の金属器は、今は自分の手の中だ。
おかげで、この金属器からの攻撃を心配する必要はない。
── 金属器と、黒の長剣……。この二つを上手く使って乗り切れば……!
頭の中で必死にアジトの経路図を思い出す。
何としても出口までたどり着いてやる。
「まさか、本気で僕を連れて逃げ出すつもりなのかい? 」
背に隠した少年が言った。
「当たり前でしょ! あなたを絶対外に連れ出してみせるわ! 」
「勇ましいなぁ。だからって、この囲まれた状況でどうやって逃げるつもりだい? 」
「隙はつくるものよ。走る準備をしておいて」
「隙をつくる……? 」
「こうするのよ! 」
ハイリアはマゴイを湧き上がらせると、構えた長剣に注ぎこんだ。
黒い長剣の刃に白い光が絡みつき、強い光を宿して輝き出す。