第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── なんだ……。それなら、やることなんて、もう決まってるんじゃない……。何を迷っていたんだろう。
顔の隠されたクーフィーヤの中で、ハイリアは薄く笑みを浮かべた。
大きく息を吸い、吐いて、ずっと邪魔に思っていた片手に持つ長杖から手を放す。
床で跳ねた杖は転がり、カラカラと虚しい音をたてた。
「何をしているのです? 」
「杖を捨てるなど……」
「杖なんていりません。実験も中止です」
ざわつく従者たちに、裏声はもう使わなかった。
そんなことは意味がない。
彼らに刃向かうと決めた今、この瞬間から!
覚悟を決めて、黒剣の柄を両手で強く握りしめると、ハイリアは鉄格子に向かって勢いよく駆け込んだ。
走りながら剣にマゴイを灯し、地面を踏みきり跳び上がる。
長剣を大きく振り上げた。
「ふせて!! 」
言い放った瞬間、牢屋に座り込む褐色の少年が目を丸くして首をすくめた。
それを合図にマゴイを宿した刃剣を、鉄格子めがけて力いっぱい叩きこむ。
重い衝撃と共に鉄格子が大きく斜めに切り裂けて、鈍色の格子に触れた白のマゴイが、切れ目から縦に細かな亀裂を走らせた。
ピキピキと音をたて、鉄格子が砕け落ちる。
剣の切れ目に沿って金属片が雨のように降り注ぎ、床を叩く小さな金属音が牢内に響きわたった。
握りしめていた鉄格子が砕け散り、唖然としている少年を横目に、ハイリアは囲いの無くなった牢屋内へと滑りこむと、迷うことなく少年の足枷に黒い刃を突き立てた。
自由を拘束する鎖を断ち切る音がする。
「あんた、こいつらの仲間じゃないのか……?! 」
目を見開き固まっている少年に向かって、ハイリアは頷いた。
「そうよ。何があったか知らないけど、恨みに呑まれてこんな事に関わっても、ろくなことにならないわ。ここから逃げるわよ! 」