第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── 罪人なら……。
と、一瞬でも思ってしまった自分自身に恐ろしさを感じた。
名前も知らないこの少年のことを、自分は何も知らないのに。
彼はいったい何の罪を犯したのだろうか。
── 窃盗、詐欺、傷害……、それとも誰かを……?
とてもそんな大きな罪を犯した人には見えない。
誰かを憎む言葉を口にして、命を奪うかもしれない闇の金属器の力を望む少年は、激しい怒りを秘めているようなのに、その瞳はひどく寂しげだ。
まるで誰かに助けを求めているような……。
苦しんでいるようにも見える寂しげな瞳が、ジュダルの表情と重なり合い、足が止まる。
── 彼もこの人たちに利用された一人なんじゃ……?
褐色の少年と覆面の従者たちとの間で、ハイリアは動けずに立ちつくした。
「どうしたのです? 急に立ち止まって……? 」
「何をモタモタしているのですか。早くして下さい」
「あなたが金属器を手渡さなければ、実験が行えないのですぞ! 」
急かす従者たちの声が響く中、黒剣を持つ手が小刻みに震えていることに気づき、ハイリアは苦笑した。
── だめ……。やっぱりできない……。
罪人であろうと、誰であろうと関係ない。
この怪しげで危険な組織に利用されている人を見過ごすことなんて、とてもできない。
丸い試験管の中で眠りについていたダンジョン生物と、それと混じりあったような身体をもつ、奇怪な人型の姿をした武官たちが思い浮かんだ。
あの人たちだって、組織に利用された者たちだ。
平気であんな実験を行う人たちに、加担するようなことはしたくない。しちゃいけない。
そんな実験を手伝うことなんて、絶対に……。
たどりついた答えに、我ながら呆れた。