第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「さあ、早く手渡してください」
「ほら、さっさとこっちに渡せよ! 」
堕転した少年が声を張り上げて叫び、それを見つめる覆面の従者たちの鋭い眼差しが突き刺さった。
黒剣を握りしめた身体は上手く動かない。
足はまるで石になってしまったかのように固まっていた。
── 動かなきゃ……。
ここで正体がバレたら、このアジトに侵入した意味がなくなってしまう。
せっかく掴めた組織の秘密が台無しになるかもしれない。
── 今は……、今だけは、従者のように振る舞わなければ……。
抱き寄せて側にいろと言った漆黒の少年の姿が浮かぶ。
時折見せる彼の寂しげな表情を思い出して、胸がぎゅっと締め付けられた。
── そうよ、ジュダルをここから連れ出すためにも……!
自分に言い聞かせながら、考えそうになる恐ろしいことを振り払い、ゆっくりと少年に近づいた。
足が鉛のように重い。
揺らぐ心の迷いは消えない。
普段は扱わない大きな長剣は、ずっしりと腕に重みを伝えてくる。
黒剣とは別に持つ、従者の証のような長杖がひどく邪魔に思えた。
一歩踏み出すたびに剣の重みが腕に響き、牢内にいる少年の姿が鮮明になっていく。
腕を伸ばす褐色の少年の肌にある、無数の痛々しい火傷の痕がはっきりと見えて、胸がずきりと痛んだ。
視線を逸らした先に、髪を剃られた首筋に刻まれた数字の刺青が目に入り、心が揺らぐ。
囚人番号を示す、罪人の証。
そう、彼は罪人なのだ。決して消えない印を体に刻まれるほどの。