第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
目の前では、黒い長剣を手渡そうとする覆面の男が待っている。
その奥では、鉄格子の合間から手を差し伸ばす褐色の少年が、不敵な笑みを浮かべていた。
「さあ、早くその闇の金属器とやらを僕にくれよ! 僕にだって力が宿ることを、今すぐ証明してやるからさ」
少年から溢れ出る漆黒のルフが気持ちをかき乱す。
── どうしよう……、こんな実験をさせるわけには……! だって命を落とすかもって……。
そんな危険なことをさせるわけにはいかない。けれども、今動かなかったら確実に怪しまれる。
従者らしからぬ行動をとれば、侵入者だとばれてしまうかもしれない。
こちらを見据える少年の鋭い目つきがハイリアをとらえ、急かすように大きく開き向けられた、褐色の手の平に心が揺らいだ。
周囲を取り囲む覆面の従者たちの視線が緊張感を高めていき、差し出された黒い剣が嘲笑うかのようにギラリと光る。
── どうすればいいの……?
妙な汗が背中を伝い、流れ落ちていった。
速い鼓動と浅くなる呼吸を落ちつけようとするせいで、ただ息をするのも苦しく感じる。
── どうすれば……。
揺れ動き入り混じる感情が惑わせる。
目の前の少年と、いつも側にいる漆黒の少年の姿がだぶって見えた。
── 選べというの……? どちらかを……。
恐ろしさが身を包んでいた。
注がれる強い視線に圧迫感を覚える。
── 私……、わたしは……。
いくら考えても、答えがわからない。
それなのに、ハイリアは目の前の黒い剣に手を伸ばしていた。
冷たい金属の感触が指に触れ、その柄を片手で握りしめた途端、ずっしりとした武具独特の重量感が腕に伝わる。
黒の長剣。闇の金属器。
命を落とすかもしれない実験の元となる重みに困惑する。