第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
ふと、自由に空へ飛び立っていかない、黒ルフの姿が思い浮かびハッとした。
── あれは飛ばないのではなくて、飛び立てないのか……?
黒いルフたちは、まるで何かの意志に従うかのように、地にとどまり渦巻いて、白ルフたちの集う巡りに近づこうとしない。
ルフは命の源であり、世界の血潮だ。
自由に飛び交い、命を紡ぎ、大いなる流れを巡るルフたちが上手に飛び立てなかったら、あの命の大河に帰ることができない。
あの流れから逸れてしまった黒ルフたちは、どこへ帰るというのだろう。
まさか、冷たい声が響く闇の中で、さまよい続けるとでもいうのだろうか。
たどりついた答えが恐ろしくて、背筋が凍り付いたように感じた。
── じゃあ、この黒ルフを宿す人たちはどうなるの……? 彼らも、同じようにルフの流れに帰ることができないんじゃ……!
脳裏をよぎった漆黒の少年の姿が胸を締め付ける。
認めたくないことが頭を混乱させた。
── そんな……、うそでしょう!? そんな悲しいこと……!
「さあ、新入りの方。その者にこれを渡して下さい」
すぐ側で低い男の声が響き、ハイリアが我に返ると、いつの間にか目の前に一人の従者が立っていた。
なぜか八芒星が刻まれた黒剣を、自分に突き出している。
状況が掴めずに辺りを見渡せば、覆面の男たちの視線が自分に集中していた。
「何をぼーっとしているのですか? 」
「新入りのあなたに、この大役をお譲りしようというのですよ? 」
「早くその闇の金属器を、黒き器に差し上げるのです」
従者たちの声が飛び交い、ハイリアは戸惑った。
この闇の金属器を、牢屋にいる少年に手渡せということらしい。
── なんで、私が……!?