第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「くくっ、やはり良質な被験体だったようですな。運命を恨み、堕転された」
「良き黒き器のようで……」
側に立つ覆面の男たちが、黒ルフを湧き上がらせた少年を見て、嬉しそうに笑っていた。
── 運命を恨む……? ダテンする……?
少年から溢れ出す漆黒のルフの闇と、覆面の従者の周りを飛び交う黒ルフが重なり合う。
特異な黒ルフと白いルフの姿が交互に浮かび、ハイリアは困惑した。
── じゃあ、あのルフは……! 元々黒かったわけではなくて……。
元は同じルフなのか?
白いルフが黒く変わってしまうことが……。
── 堕転するって、いうことなの……?
闇に響く冷たい声が背筋をぞくりとさせた。
白から黒へ転じたルフが黒ルフの正体。
だとしたら、黒ルフを持つ者たちは皆、堕転しているということになる。
目の前の少年も、覆面の従者たちも、皇后も、そしてジュダルも……。
── 運命を、恨むって……?
従者たちの言った言葉が不安をかき立てる。
運命があるとしたら、それは自分ではどうにもできない道筋のようなものだ。
それこそ世界の理のような……。
── それを恨むことが、堕転……?
世界の理のようなものを恨んだ時に、ルフの色が変わるとでもいうのか?
それほどまでに深い恨みが、ルフを黒く染め変えるのだとしたら……。
── それって……まるで、自分のことさえ憎み恨んでしまうような……。
それはとても恐ろしいことのように思えた。
急に暗がりへ突き落とされて戻って来られないような、何かの道筋から外されたような、言いようのない胸騒ぎを覚える。
色が戻らないほどに、黒く染まってしまったルフはどうなるのだろう。