第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
鉄格子から腕を伸ばす褐色の少年に、一人の覆面の従者が歩み寄った。
少年から溢れる黒く汚れたルフと、覆面の男の側を飛び交う漆黒のルフが混じり合う。
薄暗闇の牢獄の影をさらに濃くするその色を見つめながら、ハイリアは従者たちの中で一人、立ちすくんでいた。
「お待たせして申し訳ありませんでしたな。準備に少し手間取りましてな」
「随分とぞろぞろと連れてきたんだね。僕が説明を聞いた限りじゃ、そんなに人がいないとできない実験には思えなかったけれど……? 」
牢屋の一角を取り囲む覆面の従者たちをじろりと見やり、少年が言う。
その鋭い眼光がハイリアにも注ぎ、思わず身を固めた。
「皆、あなたの雄姿が見たいのですよ。その様子ですと、実験についてはご理解頂けたようですな」
「ああ、理解したさ。実験に失敗すれば、僕は力を得ることなく死ぬんだろう? 」
「まあ、そうでしょうな。失敗すれば、命を落とすでしょうね。しかし、あなたが力を宿せる黒き器だった場合には、闇の金属器が答え、望むだけの力が手に入るはずですよ」
覆面の男がにやりと笑っていた。
── なにを、言ってるの……?
とんでもない言葉にハイリアが戸惑う中、くっくっと声が響く。
「いいさ、それで……。力が手に入らなければ、生きていたって無意味だからね。どうせ何をしたって、あの人はもう帰ってこないんだ。僕に残されたのは、この道だけさ」
牢屋の少年が曇った目をして笑う。
「力を手に入れて復讐してやるよ。あの人を亡き者として、僕を陥れたあいつに! こんな腐った運命なんて……、僕は認めるものか!! 」
表情を険しくさせ、怒り叫んだ少年から真っ黒なルフが湧き上がり、ハイリアは息をのんだ。
── ルフの色が!?
黒くよどんだルフの色が深まり、完全なる漆黒へと変化する。
白の光を失ったルフは、憎しみの言葉を口にした少年を包むように渦巻いて、けたたましい鳴き声を上げていた。
風が低く唸るような音と共に、人が恨み叫ぶ、おぞましい声が、闇に染まったルフの中から聞こえる。
胸を締め付けるその冷たい声は、『神事』で見た黒ルフの闇から聞こえた声と同じ声だった。