第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『魔導の素質……。魔法のことだな』
『おまえさん、魔法を知っておるのかえ? 』
『いや、噂に聞いたことがあるだけだ。実際に見たことはない。そんなにハイリアは、魔法ってもんを使っちまうのか?
俺たちといる間に、魔法らしいことをしている様子はなかったけどな……』
不思議そうにムトは眠っているチビのハイリアを見つめ、肩まである真っ白な髪を撫でる。
『いつもではないのじゃ、感情が乱れると起こるのじゃよ。子どもらはよく喧嘩するじゃろう? そういう時に、無意識に相手を傷つけてしまうようなのじゃあ。
ハイリアには、それが魔法せいだとは教えていないがね。知ればますます力が強まってしまう気がしてのう……』
『……その人を傷つけちまう魔法を、抑える方法はないのか? 』
『魔法が扱えれば、できるのかもしれん。じゃが、わしにはその力がない。
できる事と言えば、これ以上、ハイリアの魔導の力が強まらぬように、ルフと離れた生活を強いることだけじゃった。
ルフと触れ合うことを禁じ、おばば以外の者の前では、ルフの存在を見ることも、話すことも禁じてきた。ハイリアは良い子でのう、おばばの言いつけを健気に守っておったよ。
しかし、思うようにはいかんかった。ハイリアが成長するごとに、魔導の力は強まる一方でのう……』
『それで、村人たちから避けられてるのか……』
『そうじゃあ、奇妙な力をもつ子どもと見られてのう……。普通の者には魔法の理解などないから尚更じゃよ。
特異な目で見られ、避けられるうちに、ハイリアもだんだんと、子どもらと外で遊ぶのを嫌がるようになってしまってのう。それでも、皆となじめるように頑張っておったんじゃが……。
全部、おばばの力不足のせいじゃよ……。せめてあの力の暴走を抑えられる方法があれば、いいんじゃが……』
老婆のため息が部屋に響き、囲炉裏に灯る火が揺れ動いた。
ムトは難しそうな顔して、何かを考え込んでいる様子だった。
しばらく腕を組んで黙り込み、それから膝元で眠るハイリアを見つめた。