第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『いいものだな。シンプルだが、よく見ると細工が細かいし、売ればいい値がつくだろう。腕輪の裏に擦れたような文字の跡があるが……、これはトラン語か? 』
── トラン語?
気にしたこともなかったが、そんなものあっただろうか。
『そうじゃあ、消えかかっていて読みにくいがトラン語じゃな。その文字をつなぎ合わせると「ハイリア」の名前になるんじゃよ』
『婆さん、トラン語が読めるんだな。俺には何かの模様みたいにしか見えねぇーが……。
それにしても思い切ったな。この切れぎれに浮き出ている文字をつなぎ合わせて、名前らしいものにならなかったら、どうするつもりだったんだ? 』
『それでも似せてつけたわい。少しでも、この子が親御を見つける手がかりになればと思ってのう……。それでどうじゃ、何かわかったかえ? 』
答えを待ち望んでいた老婆に、ムトは首を横に振る。
『いいや……、すまねぇーが、どこの国の物かまではわからないな。トラン語があるようだが、トランの民の装飾品に使われている細工とも違う。
近いと言えば、中東の装飾品に使われる技法だが……、どの国の特徴とも当てはまらないよ。俺が行ったことがない土地の物なのかもしれない』
『そうかい……。見てくれてありがとのう……』
ムトが返した銀の腕輪を受け取ると、老婆はそれを見つめて深いため息をついていた。
『……なぁ、婆さん。この村の子じゃないから、ハイリアに対する風当たりがあんなに強いのか? こんな小さな子に、村人たちのあの態度は異常だろう? 』
『…………嫌なものを見せてしまったのう。昔はここまでひどくなかったんじゃが……。皆、ハイリアを恐がりおってのう……』
そう言って、老婆は目を伏せた。
『恐がる? こんな小さな子をか? 』
『そうじゃ、こんな幼子をじゃあ。おまえさん一緒にいて、少し変わったことがなかったかい? 』