第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
老婆の家に案内されたムトたちは、日が暮れてから老婆の手料理でもてなされ、ハイリアや老婆と共に食事をとり、そのままその家に泊まることになった。
ハイリアはムトたちと泊まれることが相当嬉しかったのか、外が暗くなってからもずっとはしゃいでいたが、さすがに眠気に勝てなくなり、先程からムトの膝元に寄りかかって眠っている。
ムトが連れて来たキャラバンの連中も、ハイリアに付き合って遊び疲れたようで、いつの間にかムトが座る後ろで、それぞれが壁にもたれかかって眠りについていた。
静かになった家の中で、囲炉裏に灯る火を囲み起きているのは、今はムトと老婆だけだ。
チビのハイリアが眠ったことで、過去の記憶が途絶えるかに思えたが、情景はまだ消えない。
── これは、あいつが見てきた記憶ってわけじゃねーのかもな……。
ハイリアが直接見た記憶なら、とっくに目の前の映像は途切れているはずだ。
そうならないということは、今見ているものは別の誰かの記憶か、あいつの意識とは無関係に刻まれた記憶ということになるのだろう。
しかし、あいつ以外と接点はないのだから、前者であるはずがない。
── ……ルフの記憶なのか?
部屋の戸棚の上に座り込みながら、眠るチビのハイリアを見下ろして考えていると、囲炉裏で沸かした湯で茶を入れていた老婆が、ムトの座る側に湯呑みを置いていた。
『すまないねぇ、家が狭くてのう。それに、すっかり客人に遊んでもらってしまったわい……。こんなにはしゃぐハイリアを見たのは、久しぶりじゃよ』
『ハイリアと遊ぶくらいかまわないさ。こちらこそ礼を言わせてもらうよ。この村に招かれなければ、俺たちは今日も野宿の予定だったんだ。
温かいご飯と宿を頂けただけでもありがたいのに、湯あみまでさせてもらった。本当に感謝している』
老婆が入れた茶を手に取りながら、ムトが言った。
『たいした礼はできんが、喜んでもらえたなら何よりじゃよ。やはり最近はどこも荒れているかね? 』