第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『なんだ、ハイリア。おまえ、喧嘩中だったのか? 』
様子をみていたムトが言う。
『うん、ちょっとだけ……』
『そうか。えらいな、おまえは! 』
ムトは浮かない表情をしているハイリアに笑いかけ、わしゃわしゃと頭を撫でると、小さなハイリアを抱き上げて馬車の運転席から跳び降りた。
老婆の前まで歩み、ハイリアを下ろす。
『突然、村に押しかけて申し訳ない。キャラバン長のムトという。この村の長の方と見受けられるが、あなたがハイリアの親御さんだろうか? 』
『いかにも、わしが村の長であり、ハイリアの親じゃあ。村人たちの数々の非礼、代表してお詫びさせて頂く。本当に申し訳なかった』
深々と礼をして、老婆は言った。
『お詫びなんていいさ。ハイリアがちゃんと親元に戻れたならそれでいいんだ。川で溺れていたところ助けたんだが、怪我はないようだった。
これだけ元気だし、問題ないとは思うが、念のため気にかけてやってくれ』
『そうかい、この子が川でねぇ……よく見つけて助けてくれた。おまえさんたちには、何かお礼をさせておくれ。でなければ、おばばの気持ちがおさまらんよ……。
じきに日も暮れるじゃろう。どうか、今宵は村に泊まっていってくれないかね? たいした礼はできんが、おもてなしさせてもらうよ』
『そりゃあ、ありがたい。でも、いいのかい? 馬車には俺たち二人の他にもあと四人、食べ盛りの奴が乗ってるぜ? 』
『かまわんよ。ほれ、おまえたち! この方々はおばばの客人じゃあ、そこを通しておくれ! 』
老婆が声を張り上げると、馬車を囲っていた男たちが微妙な表情をしながらも道を開けて行った。
そこを老婆に手を引かれたハイリアと女のチビが歩き、後ろをムトと馬車がゆっくりとついて行く。
『大丈夫なのか、あいつらは……』
『白っこが連れて来たものだぞ』
『ろくな連中なわけがねぇー……』
『どうせなら流されてしまえばよかったものを……』
『おい、やめろって! 大婆様に聞こえるぞ』
どこからともなく聞こえてきた男どもの汚い声にイラついたが、それはバカ殿と似た男も同じだったようで、気に入らない様子でムトは顔をしかめていた。