第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『ムトたちは、たすけてくれたのー! ひどいことしないでー! 』
声を張り上げたハイリアを振り返り、ようやく驚いた表情をみせたムトとスミスの姿に呆れる。
随分と肝が据わっている連中のようだ。
『見ろ、白っこだ! 』
『ほんに、白子だ』
『なんで白子が村の外に……? 』
『おまえたち、これはいったい何の騒ぎじゃあ!! 』
村の男どもがざわつく中、しゃがれた婆さんの声が響く。
『大婆様!? こんな素性のわからない者たちの前に出てきては! 』
『何を言っておるんじゃい。どう見たってこの者たちは盗賊ではないわい。いい加減おまえたちも、その物騒なものをしまうんじゃあ! 』
叱りつける声が響き、馬車の周りに集まっていた男どもが顔を見合わせながら、手に持っていた農具を下ろしはじめた。
男どもが道を開き、そこから見覚えのある老婆が姿を現すと、側にはなぜか、ハイリアと同じくらいの女のチビを連れていた。
『おばあちゃん! 』
『ハイリア!? なんでおまえさんが、そこにおるんじゃあ! 』
ハイリアの姿を見るなり、老婆は驚いた様子で馬車へと駆け寄った。
『まったく、ずいぶん捜していたんじゃよ。凛々が泣きながら家に来てのう、おまえを仲間外れにしてしまったと悔いておってな。
それから一緒に探して回ったというのに、ぜんぜん姿が見つからんから心配で、心配で……』
『ごめんね、ハイリアちゃん。みんなに、やめようっていえなくて……』
老婆の隣にいるチビが、泣きそうな声で言いながらうつむいていた。
先程のガキどもの中にいた一人なのだろう。
『……いいよ。もう、ハイリアおこってないもん』
そいつに向かって怒鳴りでもすればいいのに、チビのハイリアはそれ以上何も言わなかった。
寂しげな眼差しをしているくせに、無理に笑っているようなその表情のせいで、胸が疼き面倒な気分になる。
ふと、ルフに刻まれた呪印で苦しみながらも、笑って誤魔化していたハイリアが思い浮かんで、ジュダルは目を逸らした。