第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『なんだ、あんた達は!? 』
『何しに来た? 』
『村に商人が来るなんて聞いてねぇーぞ! 』
『さっさと出ていけ! 』
響いてきた大きな男たちの声を聞いて、ハイリアは怯えた様子で蘭花の服にしがみついていた。
『何事だい? 物騒な声だして……』
『やっべぇーよ蘭花! 馬車が村人の奴らに取り囲まれてるみたいだ! あいつら槍みたいな農具持ってるよ! 』
窓辺から顔を出していたカイトというガキが慌てて叫んだが、荷台にいる他の連中は誰も焦る様子がない。
『なんだ、そういうことかい』
『おおかた、また賊にでも間違えられたのでしょう。最近、多いですから……』
相変わらず湾曲した武具を磨いている、風真という男が言った。
『ばぁーか、焦るなカイト。ムトなら何とかするさ』
大柄な体格をしたジファールという男が笑うと、ちょうど外から通った声が響いてきた。
『まあまあ、皆さん。少し落ち着いてくれ。村へ急な立ち寄りになったことは申し訳ない。
だが、物を売り込みに来たわけでも、盗みにきたわけでもないんだ。この村に送り届けたい子がいたから立ち寄っただけだ。
川辺で溺れていた女の子を一人助けてね、ハイリアと言うんだが、どなたか親御さんを知らないだろうか? 』
落ち着いた口調のこの声はムトだ。
声だけ聴いても、やっぱりバカ殿とどこか似ていて妙な気分になる。
『ハイリアだって? 』
『白っこの名前だ』
『川で溺れた? 』
『どういうことだ、賊じゃねぇーのか? 』
ざわざわと村の男どもが話す声が聞こえ始めると、ハイリアが突然走り出した。
ムトたちがいた運転席に向かって駆け、荷台との分かれ目にある大きな布をくぐり抜ける。
たどり着いた馬車の運転席に立つと、尖った農具をもつ村の男たちの姿が見えた。
鋭い刃先を馬車に向け、ぐるりとその周りを取り囲んでいる。
殺伐とした雰囲気は、いつ襲撃を受けてもおかしくなさそうだというのに、運転席に座る二人の男は、特に慌てる様子もなく先程と同じようにその場に座っていた。