第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『こらこら、ハイリア。あんまりムトを困らせちゃいけないよ。
マゴイ操作は、マゴイが安定していない子どもが扱うには難しいものなんだ。覚えたいなら、もっとハイリアが大きくなってからでないとね』
にっこりと穏やかな笑顔でスミスが言う。
『えーっ! じゃあ、おとなにならないとできないのー!? 』
『まあ、そういうことだ』
スミスに合わせるように言ったムトは、苦笑いを浮かべていた。
恐らく、都合よく誤魔化したに違いない。
『う~……。つまんなぁーい……』
納得できないのか、ハイリアはぷくっと頬を膨らませていた。
それをなだめるように、ムトが真っ白な頭を撫でる。
『そう怒るなハイリア。おまえが、もっと大きくなったら教えてやってもいいさ』
『あーあ……、ほんとは、いまじゃなきゃ、だめだったのになー……』
むくれるハイリアの声を聞いて、ムトは苦笑していた。
『ほら、ハイリア。村にもう着くよ。そんな恰好じゃあ笑われてしまうから、そろそろ乾いた服に着替えておいで』
『はぁーい』
いつの間にか、馬車は山中の農村の近くにやってきていた。
山を切り開いた荒い道の奥に、見覚えのある段々畑と田園の風景が広がっている。
ムトの膝元から降りたハイリアが荷台の中へ戻ると、準備よく乾いたチーパオをたたみ持っていた蘭花という女に手招かれた。
群青色のチーパオに着替え終えたハイリアが、女の膝元に座り、乱れた白髪をクシで整えてもらっていたところで、荷台がガタンと大きく揺れ動く。
窓辺の景色が止まっている。きっと村についたのだろう。
『よかったねぇ、やっと村について。待ちくたびれただろう? 』
『ぜ~んぜん! たのしかったよー! 』
にっこりと笑ったハイリアを見て、蘭花は微笑んだ。
『退屈しなかったなら良かったよ。さあ、お前の家族だって心配しているだろうさ。早く元気な顔を見せておやり』
『うん! 』
蘭花に手を引かれ、ハイリアが荷台の外へ向かおうとしたその時、馬車の外から低い怒声が聞こえてきた。