第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
さっき会ったばかりだというのに、チビのハイリアはすっかりキャラバンの中にとけ込んでいる。
こういうところは、今も変わっていない。
無自覚なのかもしれないが、こいつはいつの間にか周りを引き込んで、温かい雰囲気を作っちまう。
宮廷に来てからも、はじめこそ硬く緊張していたが、気づけば風当りが強かった奴らまで惹き込んで、味方につけていた。
だからこそ、先程の村でのハイリアの様子は違和感を覚えた。
忌み嫌われて、除け者にされ、ずっとうつむいて黙り込んでいるあいつなんて、らしくない。
このキャラバンの奴らといる時の方が、よっぽど今のあいつらしい。
── 話そうとしなかったのは、おまえが消し去りたい過去だったからなのか?
真っ白なチビに再び視線を送ると、ハイリアはバカ殿と似た男の膝の上で揺れる馬の尻尾を指さし、けらけらと楽しそうに笑っていたから、呆れて気が抜けていった。
いくらとけこめたとはいえ、初対面の男たちだというのに緊張感の欠片もない。
一度、信用した奴には、警戒心というものが全くなくなってしまうところも、この頃からのようだ。
『もう身体は平気なのか、ハイリア? 』
『うん、だいじょうぶだよ』
『そうか、そりゃあ良かった! 』
ムトがにかっと歯を見せて笑うと、笑った拍子に男から溢れ出した白ルフが輝いて飛び交った。
きらめいたルフの光をハイリアは目で追いかける。
『ん? どうした、ハイリア。何か顔についてるか? 』
視線に気づいたムトに言われたとたん、ハイリアは慌ててルフから目を逸らした。
『な、なんにもないよ! ……でもね、うーんとね……あの……』
『ほんとかー? 何もないにしては、随分気にするじゃないか。遠慮なんてするな、言ってみろ』
ムトの言葉に、ハイリアは困ったように瞳を揺るがせる。
もじもじとしながら、側へ飛んできた白ルフのきらめく光を目で追い、それから柔らかな笑顔を浮かべるムトの顔色をうかがっていた。