第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『どうしたカイト、もうお手上げか? 』
『たのむよ、ムトー……』
『はははっ、こんな小さい子どもの相手はカイトも初めてだったもんな。仕方ねぇー兄ちゃんだ。おいでハイリア、今度は俺と遊ぼうか』
ムトに手招きされると、ハイリアは嬉しそうに駆け寄って行った。ひょいと持ち上げられて、ムトの膝の上に乗せられる。
荷台へ戻って行くカイトに笑顔で手を振ると、ハイリアは西日があたるその席で、山に囲まれた緑の中を進む大きな馬の姿に目を輝かせていた。
『すごいね、ここ。おうまさんといっしょの、おせきだねー! 』
『そうだな、今日は特別だぞ。ここは運転手のスミスさんがいいって言わなきゃ、入っちゃいけない場所なんだからな』
『うんてんしゅのスミスさん? 』
ムトの隣に座る、馬の手綱をもつ小太りのおっさんをハイリアが見つめると、人のよさそうなおっさんがにっこりと微笑んだ。
『はじめまして、ハイリア。お馬さんを見るのは初めてかい? 』
『ううん、ちがうよ。でもねー、こんなにおっきいおうまさんは、はじめてなの! 』
『そうかい。これは荷物を運ぶお馬さんだからね、人が乗るお馬さんよりも大きいんだよ。でも、ここにいるお馬さんの年は、実は君とそんなに変わらないんだよ』
『えーっ!? じゃあこのこも、四さいなのー? こんなにおっきいのにー? 』
『このお馬さんは、エレンとカレンというんだ。エレンは三歳、カレンは五歳。ちょうど、ハイリアの妹とお姉さんかな』
『これでも、もう立派な大人なんだぞ』
ムトが言うと、ハイリアは興味深そうに前を進む二頭を見つめていた。
『……じゃあ、ハイリアもたくさんたべて、はやくおっきくなれば、おとなになれるのかなー? 』
『まぁ、そうだな。馬ほど早くはないだろうが……。ハイリアは早く大人になりたいのか? 』
『うん! だって、おとなになったら、いろんなところにいけるでしょ~? 「うみ」っていう、あおいおいけとかねー、「さばく」っていう、ひろいおすなばに、いってみたいのー! 』
『そうか、行けるといいな。きっとハイリアが大きくなれば見れるさ』
嬉しそうに微笑むハイリアを見て、ムトとスミスもつられて笑っていた。