第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
渋い顔を浮かべて黙り込んでいたカイトが、恨めしそうに三人を見つめ、馬車の前方へと視線を移したとたん、急に表情を明るくし始めた。
どうやら何かいい案を思いついたらしい。
『……そうだっ! なあ、ハイリア。お馬さん見たくないか? 』
『おうまさん? 』
カイトの声を聞いて、窓の外を見ていたハイリアが振り返る。
『そうそう、大きいお馬さんだ。この馬車を動かしてるお馬さんが見れるところがあるんだぜ! 一緒に見に行かないか? 』
『うん、いくー! 』
話を聞くなり、ハイリアは目を輝かせて木箱から飛び降りると、カイトの手を握りしめた。
ほっとした様子でカイトが歩き出す。
荷台の前方へ向かう二人の姿を見て、ジュダルは気づかれないようにハイリアの肩へ黒ルフの姿で降り立った。
『ずるい手だわ……』
『そうですね……。もう少しはできる子かと思っていましたが……』
『なんだ、もう降参かよ、情けねぇーな……』
後ろから聞こえてきた声に、隣を歩くカイトというガキが、わなわなと身体を震わせて振り返る。
『うるさいっ! だったら、代わりにやってみろよ! 寝たふりなんかしやがって、あとで覚えてろよジファール! 』
声を張り上げてそう言うと、カイトはハイリアの手を引いて、先頭の壁にかかる大きな布をかき分けた。
視界が開けた先に、晴れた山道を進む二頭の大きな馬の背が姿を現した。
『うわぁーすごい! ほんとにおっきい、おうまさんだー! 』
はしゃぐハイリアの声を聞いて、運転席に座っていた二人の男が振り返る。
バカ殿と似た男と、小太りの三十代くらいのおっさんだ。
やってきたカイトの疲れ果てた表情をみて、ムトはにやりと笑っていた。