第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
ガタガタと揺れ動く馬車の後方では、天井から垂れる紐にくくりつけられた小さな群青色のチーパオが、風に吹かれてはためいている。
黒ルフの姿となったジュダルは、屋根の骨組みの上に腰かけるようにして休みながら、馬車の中を見下ろしていた。
大きな木箱があちこちに積まれた荷台の中は、とても狭い。
ところどころに大人が足を延ばして向かい合えるくらいのスペースはあるが、寝転んで休むには少し窮屈そうだ。
その中をすっかり元気になったチビのハイリアが、さっきから下着姿で走り回ってはしゃいでいる。
積まれたに木箱が並ぶ隙間をちょこまかと動き、また何かを見つけたのか、近くにあった木箱を踏み台にして登ると、馬車の窓から身を乗り出した。
『あっ、おっきいちょうちょー! みてみてー! あそこにたくさんいるー! 』
『わ、わかったから、少しは大人しくしてくれよ……』
慌てて身を乗り出すハイリアの身体を支え、困り果てたようにため息をついたのは、十歳くらいに見える赤毛の男のガキだ。
『ぷぷっ……、カイトが困ってるわ』
『これも勉強の内です』
窓の向かいに座り込む、黒髪を団子状に結った色気のある若い女が、可笑しそうに笑いをこらえていた。
その隣では、女と同じ二十代くらいの頭が堅そうな若い男が、三日月型の武具をひたすら布で磨いている。
『なあ、蘭花も風真も手伝ってくれよー! こいつ元気になったとたん、すっげー動いて危ないとこばっか行くんだ! 』
『何言ってるんだい。ムトに頼まれて、面倒をみるんだって張り切っていたのは、お前じゃないか。お前の方が年も近いし、お兄ちゃんなんだから上手く面倒見ておやり』
『私は武具の手入れで忙しいですから……』
『なんだよ、少しくらい手伝ってくれてもいいじゃんか……。なあ、ジファール! いつまでも寝てないでハイリア一緒にみてくれよー! 』
ハイリアがよじ登った木箱の下で横になっている体格のでかい男の身体を、カイトというガキが足で強く揺するが、男が起きる気配はない。
『無駄よ、ジファールが酒樽あけて寝込んだら、なかなか起きないことぐらいお前も知ってるだろう? 』
『そうだけどさあ……』