第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「どうしましたか? 早く行きますよ」
低い男の声がしてハッとした。
声をかけてきたのは、先程まで書物を運ぶために一緒にいた覆面の男だった。
気づけば、机を囲んでいた従者たちは皆、部屋の奥にある扉の方へと足を進めていた。
「……はい」
気持ちの整理がつかないまま、ハイリアは前を歩く従者たちのあとを追うように歩き出した。
異様な研究施設の奥にある扉は、すでに先を行く従者たちによって開かれている。
── この先に、ずっと探していた黒ルフの秘密があるのだろうか……。
そう思うと、胸の奥がざわついた。
恐さと興味と、緊張と不安と……かすかな願いと……。感情が渦巻いて落ち着かない。
列をなして進む従者たちに導かれるまま扉に入ってすぐに、左右に広がる鉄格子が見えてハイリアは目を見開いた。
石壁と鉄格子に仕切られた、湿っぽい空気が満ちる独特の空間は、どう見ても牢獄だ。
鈍色が光る鉄格子が奥へと続く牢屋の姿に動揺する。
── なんで、研究室の奥が牢獄に……?
戸惑いながらも、牢屋の間に作られた通路にそって足を進めると、牢内の一角にうっすらと人影が見え始めた。
従者たちの足音に気づいたのか、こちらを見たその人影が暗がりにゆらりと動く。
とたんに、ガチャガチャと金属同士がぶつかり合う音が響きわたった。