第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── もしかして……、ジュダルに傷を治してもらってなかったら、こうやってアジトに侵入することも危なかった……?
もしもまだ手に包帯を巻いていたら、恐らく『銀行屋』たちは出会って一番に自分を疑っていたのだろう。
書物を持つ傷痕が消えた手に軽く力を込めながら、ハイリアは隠されたベールの中で目を伏せた。
── 助けてもらっちゃったね……。
隣で穏やかに眠っていたジュダルの寝顔が思い浮かんで、胸が痛んだ。
── 本当に、身体に変調はなかったの……? あれだけのマゴイを宿したのに……。
割れ裂けた黒ルフが溢れる漆黒の球体から、力なく倒れ込んでいたジュダルの姿が脳裏をよぎり、矢のように彼へと飛び込んでいった、白の光が灯る黒ルフが思い浮かぶ。
「……あの黒ルフからは何か見つからなかったのですか? 」
「あの黒ルフ……? ああ、例の妙なルフのことですね。我らの暗黒を切り裂いたあの黒ルフには、何かの魔法と思われるマゴイが宿されているようでしたが、それを取り込まれた『マギ』の黒ルフを調べましても、宿されていた魔力の痕跡はすでに消えておりました」
── 消えていた?
黒ルフの闇を抑えるために、無我夢中で力を込めた多量のマゴイが消えるなんて、とてもじゃないが信じられなかった。
まさか、ルフの中に吸収されて消えてしまったとでもいうのだろうか。
「全て、ですか? 」
「ええ、何が仕掛けられていたのかは全くもって不明です。
今回の侵入者は、どうも不可解なことばかりなのです。『神事』を妨害したほかは、明らかな攻撃も見られませんでしたし、侵入した者はいったい何が目的だったのか結局のところよくわからないのですよ。
あれだけの時間を費やして、大した情報もつかめないのですから、こちらとしてはいい迷惑ですがね」
「……そうですか。……早く見つかってほしいですね」
「まったくその通りです。これからの計画に支障が出ては困りますから」
覆面の男に話を合わせながら、ハイリアは息をついた。
運良く侵入の手がかりが残らなかったようだが、気分は複雑だった。