第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「随分と大きなため息ですね」
「……すみません」
「まあ、昨日は皆さん寝不足でしょうから仕方ありませんが。遅くまで侵入者の対応に追われましたし……」
男が発した「侵入者」というワードに、心臓が飛び出るかと思った。
変な汗が出てくるのを感じて、ハイリアは平常心を心掛けて段を下りる足を進めた。
「しかし、おかしな話です。黒ルフの暗黒を示さない限りは、この中へ侵入を果たすことは不可能なのですから、我らの中に裏切り者がいる可能性が高いと思いますのに、未だ正体もつかめず該当者も見当たらないとは……」
「……うまく、雲隠れしているようですね」
『銀行屋』たちに正体を掴まれていないらしいことにほっとしながら、ハイリアは男と話しを合わせるために従者らしい発言を装った。
「はい、本当に困ったものです。外部からの侵入を考え、宮廷にいる魔導士たちに探りを入れてみましたが、やはり可能性は低いようですし……。
だとしたら、他に誰がここへの侵入を果たせたのか……」
外部からの侵入に、宮廷の魔導士たちを真っ先に疑ったのは、あの扉にかけられている魔法が関係しているのだろうか。
アイムは術者と似通ったマゴイを持っていれば、扉が開くようなことを言っていた。
もしかしたら、彼らと同じ魔導士である宮廷の魔法使いたちも、『銀行屋』とマゴイが似通りやすく、あの扉を開くことができるのかもしれない。
「扉の前から回収できたガラス片からは、侵入者のものと思われる血痕が見つかりはしたものの、量が少なく、透視魔法を行っても侵入者が扉を通ってきた以上の情報はつかめませんでしたし……」
男が言ったことに内心焦った。
黒ルフが小瓶から飛び出した際に、割れ弾けたガラスで確かに手を傷つけたが、まさか飛び散ったガラスの破片についた血痕でそんなことが行われていたとは知らなかった。
あの場でガラス片を引き抜いてしまっていたらと思うとゾッとする。
「相手は手負いのはずですから、怪我を負っている者も調べはしたのですが、昨日は誰も見つかりませんでした。『マギ』のお身体にも何の変調もみられませんし、不思議なことばかりで……」
そう言って、覆面の男はため息をついていた。