第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── なんか、私ばっかり悪いことしてるみたいだ……。
胸がぎゅっと締め付けられるような思いがして、苦しかった。
知らないところでジュダルに助けられていたのに、お礼すら言えない。
彼に嘘をついて欺き、内緒でこの組織を探っていることが、ひどく愚かに思えて、胸の奥が疼き痛んだ。
── ごめんね、ジュダル……でも、もう少しだけ許して……。あなたをあんな闇の中に沈めるようなこと、やめさせたいの……。
「さて……未だわからぬ侵入者も気になりますが、皆さんお待ちかねでしょうから急ぎませんと」
「はい……」
歩調を速めだした従者の男に追いつくように、ハイリアも階段を降りた。
どこまでも下へ続く螺旋階段は、底なしの深い穴のようにもみえて、奥へ進むほどなんだか怖くなる。
だんだんと深淵へ落ちていくような、そんな気がして。
足元が冷たく感じるのは、地底の方から吹き抜けてくるひんやりとした風のせいだろうか。
湿っぽい冷気は、足先から少しずつ体温を奪っていくようで、少し肌寒かった。
冷たさが一段と強まる最下層に到着すると、覆面の男は明かりが灯る通路の奥の部屋へと足を進めて行った。
その男について行きながら部屋の中に足を踏み入れたとたん、異様な光景が広がってハイリアは目を見開いた。
広大な部屋に並ぶ、いくつもの大きな球体の中には、見たこともない生き物たちが浮かんでいた。
トカゲのような細い尾と長い舌をもつ兎、黒く二つに分かれた翼をもつ鱗の生えた熊、頭が無数に分かれた獣の足をもつ鳥……。
様々な動物が入り混じったような身体をもつそれらは、どれも表面に薄く膜が張られた卵のような球体の中で目をつむり、ゆるやかに呼吸を繰り返しながら眠っていた。
淡く青に光っているようにも見える溶液に浸されたその中で、コポコポと細かな気泡が上がっては、空気の弾ける音が部屋に響きわたる。