第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
バカ殿と似た男は、咳き込むハイリアの身体の触れるとその手にマゴイを宿し始めた。
男が灯すマゴイの光がハイリアの身体を覆い、枝分かれするマゴイの流脈を通って隅々まで行きわたる。
『見たところ怪我はねぇーみたいだな。痛むとこはないかい? 』
身体を包み込んだ光の帯をぼんやりと見つめながら、ハイリアが頷いた。
ブドウ色の瞳が男に向けられる。
『おじちゃん……、だあーれ? 』
『俺はムトだ。旅の行商人をしている』
『ぎょうしょうにん……? 』
『物を売ったり、買ったりする人のことだ。受け答えもしっかりしているし、大丈夫そうだな。無事でよかった……。突然、子どもが川を流れてくるから驚いたんだぞ! 君の名前は? 』
『ハイリア……』
『そうか、いい名前だな。どっから流れて来たか知らねぇーが、きっと家族が心配してるだろう。ちゃんと親御さんのところに送り届けてやるから安心しな。
とはいえ、そんな濡れた身体じゃ風邪を引いちまう。近くにキャラバンの馬車があるから、少し休んでいくといいさ、ハイリア』
にかっと歯を見せて笑ったムトと名乗る男を見つめ、ハイリアは安心した様子でにっこりと微笑み、頷いていた。