第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── おいっ……、このまま溺れちまうのか!?
記憶の中だとわかっていても、気分が悪かった。手が出せないことに苛立ちを覚える。
息を堪えていたハイリアの口から、ついにゴポゴポと大量の泡沫が水面に向けて溢れ出した。
吐かれた細かな泡沫が途絶え、小さな白い肢体が力を無くして水の中に沈み込みそうになったその時、突如水面に現れた大きな影が勢いよく迫ってきた。
とたんに、ハイリアの身体が引き上げられて岩場に放り出される。
ぐったりとしているハイリアは、目を閉じてぴくりとも動かない。
その身体を全身びしょ濡れになった男が力強く揺すっていた。
『おい、起きろ! たのむから起きてくれ! 』
助けだしてくれたらしいその男が、声を荒らげながら何度も強く身体を揺すると、ハイリアの表情が歪み、口元から水がこぼれだした。
ゴホゴホとむせたような咳をし始め、うっすらとブドウ色の瞳が開かれる。
『よかった、わかるか? 』
男の呼びかけに、ハイリアはこくりと頷いていた。
目覚めたハイリアの姿に安堵しながら、側にいる男の顔を見てジュダルは目を丸くした。
── バカ殿……?
目覚めたハイリアを見て喜ぶ男は、こちらがいくら誘ってものってこない覇王とよばれる男に酷似していた。
しかし、あいつはこんなに髪が黒くないし、この男のように短髪ではなく長髪だ。髭もたずさえてはいない。面影は似てはいるが、あいつとは違う。
── 誰だよ、こいつは……?