第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『やーっ! はなしてー!! 』
『こら、騒ぐんじゃない! 』
『そうですよ、大人しくしていればたいして痛みもありませんから』
『はなしてよー! おばあ……っ! 』
男の手に口を塞がれたハイリアのくぐもった声が辺りに響いた。周囲に人なんて誰もいない。
黒装束の男たちに抱え込まれたまま運ばれて、どんどん村から離れていく。
小さな白い体が逃げ出そうともがく中、男たちは草原をこえ、その先にあった大河にかかる長いつり橋を渡り始めた。
『まさかこんな山奥に、いい掘り出し物があったとはな』
『あのお方もお喜びになるでしょう』
にやにやと不気味な笑みを浮かべる男どもの声を聞きながら、ハイリアの目にはじわじわと滴が溜まってきていた。
── バカっ! こんなところで使ったら!?
ぱちぱちと急激に集まり始めた白い光の粒が見えて、ジュダルは慌てて白い髪につかまった。
次の瞬間、泣きはじめたハイリアの身体から真っ白な閃光が輝き出し、荒々しい突風が湧き起こった。
激しい突風は、ハイリアを掴んでいた男の手を引きはがすように勢いよく吹き荒れて、男の身体を吹き飛ばす。
しかし、同時にハイリア自身の身体も風にあおられて投げ出されていた。
激しい風圧に押され目を見開いている男の腕から、ハイリアが抜け落ちるようにつり橋の合間へと放り出されたのは一瞬のことだった。
叫ぶ間もなく、ハイリアは橋の下を流れる川に落ちて呑み込まれた。
水しぶきが上がる音と同時に、視界は揺らめく青一色に変わる。
川の水流は意外と速い。小さな体が流れにもがき、何度もきらめく水面に白い腕を伸ばすが全く届かない。
過ぎ去っていく岩場に手をかけようとするが、小さな手は凹凸を上手くつかめずに岩間をすり抜けていく。
流れに揉まれ、水の中で二転、三転しながら手足をばたつかせるハイリアは、息を苦しくなってきたのか、口元を押さえ込み始めた。