第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
『みんなだいっきらい! どっかいっちゃえー! 』
わっとハイリアが泣き叫んだ瞬間、周囲を飛び交う白ルフたちがその光に引き寄せられて、真っ白な荒風が巻き起こった。
わんわんと泣き声を上げるハイリアに呼応するように突風が吹き荒れ、辺りの草花を揺らし、色鮮やかな花びらを散らして巻き上げる。
危うく吹き飛ばされそうになり、ジュダルは慌ててハイリアの髪にしがみついた。
── すっげーな、こりゃ……。
少し前に夢で見た時よりも、風の魔法の威力は増大している。
これだけの威力があれば、人を傷つけることなど容易だろう。
傷つけることがわかっていて、わざわざ草原しかないような場所に来たのかもしれない。
それにしても、突発的とはいえ杖もなしの滅茶苦茶な魔法だ。
身に宿したマゴイにルフを集めて、身体から直接魔法を放つなんて、とてもまともな方法じゃない。
── 魔法か……。そういやハイリアが魔法を使うところは、魔装をしている時以外は見たことがねーな。
ルフが見えるなら魔導の素質があるってことだが、攻撃を受ければ自然に発動するはずの防壁魔法すら見たことはない。
稽古中に悪戯に攻撃を仕掛けたところで、あいつは普通に避けて、マゴイ操作や魔装で反撃してくるだけだ。
── どういうことだ? 素質をもつやつが防壁魔法もできないなんて、聞いたこともねーけど……。
幼いハイリアが扱っているこの風魔法の一端でさえ、あいつから感じ取ったことはない。
これはあいつの過去の記憶だ。偽ることなんてできないのだから、今のあいつだって魔法が扱えてもおかしくないはずなのだが……。
泣きわめいていた声が途絶えていることに気づきハイリアを見ると、ハイリアは鼻をすすりながら袖で涙を拭っていた。
まだ吹き荒れている風を泣き腫らした目で見上げ、困った様子で自らの体を腕で抱きしめる。
『う~……、はやくなおってよー……』
マゴイのコントロールができないのか、白い荒風は中々治まらない。
ハイリアの身体から溢れ出る光に惹かれるようにピィーピィーとルフたちが集まり、突風が吹き荒れ続ける。