第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
アイムの言葉を嬉しく感じながら、にっこりと笑ったその時、バタンッと勢いよく扉が開く音が響き、ハイリアは慌てて金属器を袖の奥へと押し込んだ。
腕に抱えていたジュダルの魔術書を棚へ戻そうとして、本が斜めに倒れかかってきて入らなくなる。
急いで本を寄せ直していたところで、『銀行屋』の男の咳払いが聞こえた。
いつの間にか、すぐ後ろに立っていた覆面の男の手には二本の長い杖が握られていた。
「何をしているかと思えば……。『マギ』の魔術書を読んでいたのですか? 」
「ああ、はい……」
勝手に見ていたことを怒られるかと、ドキドキした。
「『マギ』ともあろうお方が、何を書かれているかは気になるかもしれませんが、その魔術書はあまり参考にはなりませんよ。悪戯が過ぎますし、記載も雑で、読んでもわかりませんでしたでしょう? 」
「はい……? 」
男が言ったことにハイリアは、ぽかーんとした。
── え、どういうことですか……?
ジュダルの本に書かれていた、難しそうな図形や数式を思い出して頭が混乱した。
「あのお方は多大な魔力をお持ちではありますが、覚えられる魔法も、作り出す魔法も偏っております。そこに記されている魔法も、くだらないお遊びのものがほとんどです……。
その中で唯一、まともに書かれているのは浮遊魔法くらいではないでしょうか。近頃、やたらと練習されているあの魔法でさえ、絨毯もなしに飛べたら格好いいからという理由ではじめられていますからね……。
もう少し、実用的なものを考えて頂きたいものです」
ため息をついた覆面の男の姿に、思考がいったん停止する。
── え……、ほとんど……遊びの、魔法……?!
わからなかった書物の内容がわかったとたん、感動さえ覚えていた気分が、一気に崩れていく感じがした。
いつも遊んでいる風にしか見えないジュダルが、隠れてこんなに努力していたのかと思ったのに。
彼の知らない一面が垣間見えて、寂しさを感じたあの気持ちはなんだったのだ。
いないはずのジュダルにまんまと騙された気がして、だんだんと腹が立ってきた。
小馬鹿にしながら笑うジュダルが姿が思い浮かび、悔しさを感じて、ハイリアは棚の中に魔術書をぐいぐいと押し込んだ。
── さっきの私の感動を返しなさいよ、バカ神官っ!