第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
── こんなことをジュダルがしていたなんて、知らなかった……。
本棚に背を預けて、側にある散らかった机を見つめていると、ジュダルが面倒くさそうな顔をしながらも、机に向かっている姿が浮かんで胸が疼いた。
なんとなく寂しく思えて、机から目を逸らす。
── 私、側にいるのに、ジュダルのこと、まだ知らないことばっかりだね……。
彼の本を抱えてハイリアは大きなため息をついた。
「私も魔法が使えてたら、こういうことをしていたのかな……」
ぽつりとつぶやくと、アイムの困ったような声が響いてきた。
『……やはり先程の話で、あなた様を混乱させてしまいましたね……』
袖元から金属器を引き出すと、浮かんでいる金色の瞳が揺らいでいた。
「気にしないでよ、アイム。話してって言ったのは私の方なんだから……。
確かにびっくりはしたけれど、あの従者たちとマゴイが似ているおかげで、こうやってアジトに入って、彼らの中に上手く紛れることができたわけだし、逆手にとって利用させてもらうわよ。
アイムのおかげで、少し思い出せたこともあったしね……」
『思い出せたことですか? 』
「うん……、昔のことよ。小さい頃に見た、白い風のことを思い出したの。
泣きじゃくった時に起こる不思議な風で、何か星粒みたいなきらきらしたものを集めながら、勝手に吹き荒れていたわ。
とてもコントロールできるものじゃなくて、よく人を傷つけてしまって……。それを抑えるために、私はマゴイ操作を覚えたのよ」
感情の起伏と共に乱れることがあったあの風は、気脈をコントロールできるようになってからは、すっかり目にすることが無くなった。
思い出せた記憶の中の白い光は、今の身体に宿るマゴイの色とも似ているように思う。
「師匠たちは、あれは私のマゴイの源が乱れるせいで起こってしまうのだと言っていた。だから、私もあれはマゴイの風なのだとずっと思ってた。
でも……、私の体質が元々魔導士だったなら、あれはもしかしたら……」
『…………』
「でも、いいんだ……。元の体質がどうだろうと、マゴイが誰に似ていようと、今の私が変わるわけじゃないもの。私のマゴイの扱いが魔法を扱う時に似ているなら、そういう体質が影響しているのかもしれないね」
そう言ってハイリアは笑みを浮かべて、わずかに揺らいでいる金色の瞳を見つめた。