第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
字も汚いし、何が書かれているのかさっぱりわからないけれど、何か複雑な魔法を作り出すためのレシピのようなものが、本の中に詰め込まれていることだけはわかる。
時々、公用語も出てきて、ルフの型がどうだとか、Ⅱ型がどうで、Ⅴ型と何かを組み合わせてと書かれているらしい言葉の一部だけは、どうにか読み取れた。
── 料理のレシピをまとめる方が、まだできそうだわ……。いったい誰が書き溜めたんだろう……?
ぱらぱらとページをめくり終えた本の裏表紙の下に、ナンバリングされた数字があった。
【No,17 Judar 】
隣に書かれた名前が見えたとたん、ハイリアは顔を引きつらせて魔術書を元の場所へと強く押し込んだ。
押し込んだ衝撃で、本棚がガタガタと揺れて音を立てる。
『どうかしましたか……? 』
「なんでもないっ! 」
── なんか、今……、すごく見ちゃいけないものを見たような……。
いやいや、でも見間違いだったのかもしれない。
だって、あんなにいつも遊んでいるようにしか見えない人が、こんなびっしりと文字や図形を書くことなんてするだろうか。
ただ印鑑を押す書簡の整理を手伝ってくれるのだって、週に一回あるか、ないかだというのに。
それが読書や文書を記録することなんて……。
『……もしや「マギ」の魔術書でしたか? 』
アイムに言われて、鼓動が跳ね上がる。
「で、でも! 魔法の勉強なんて……、ジュダルがしているはずが……! 」
似合わないどころか、勉強している気配さえ感じた事がないのに。
『……多少なりともしているとは思いますよ。鍛錬だけでなく、魔法の勉学もしなければ、二つ以上の魔法を組み合わせるような、複雑な命令式は扱えませんから』
「そういうものなの……? 」
『ルフの加護がある「マギ」であろうと、魔法の本質をわかっていなければ大した魔法は扱えません。魔法には法則性がありますから、それがわかってようやく様々なことができるのですよ』
「そう、なんだ……」
アイムの話を聞きながら、ハイリアは本棚に押し戻したジュダルの魔導書をもう一度、取り出してみた。
ぱらぱらとページをめくり、彼が描いた複雑な星の図形や知らない数式を眺める。
普段、何気なくジュダルが使っている魔法も、彼が作り出し、考え出したものなのかもしれない。