第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「アイム、詳しいのね……。魔導士でもないのに……」
『私はジンですから。私が魔法を理解していなければ、あなた様も私を宿し魔法を扱うことはできませんよ』
「それもそっか……」
机に広げられた魔術書の一部らしいものには、まだ書きかけなのか、紙にはまだ白地が多い。
複雑な星の図形の下に書かれた、わからない数式も、よく見れば途中で途切れていた。
その側に、トラン語で表記された文を見つけて目をとめる。
── トラン語? なんでわざわざ……。
魔法の説明なのだろうか。
不思議に思いながら、覚えている語句をどうにか頭の中でつなぎ合わせて読んでみる。
【……魔法生物と、その応用……については、前項の……】
── 魔法生物……?
【……から……される…………によって……が作られ……】
── だめだ……、中途半端にしか覚えられてないから全然、文にならない……。
それ以上は何も読み解けなくて、ハイリアは仕方なく机から目を離した。
側にある本棚の中から、一冊の本を取り出して開いてみる。
棚にある本には、何か別のことが書かれているのかと思ったけれど、これも魔術書のようで、机の上に描かれたものとは形が違う魔法陣が書物に描かれていた。
三つの円が合わさるような星の図形は、いったいどんな魔法を描いたものなのだろうか。
説明は書かれているようだが、慣れない文字が使われていてやっぱり上手く読めなかった。
「もしかして……、この部屋にある本って全部、魔術書なのかな? 」
『そのようですね、だいぶ散らかっているようですが……』
「ほんとにね……。魔導士って、みんな片付けるのが苦手なのかしら……? 」
『そんなことはございません! 』
急にアイムが声を張り上げたから驚いた。
「な、なんでアイムが怒るのよ……」
ぱらぱらと手にした魔術書を覗き見ながら、ハイリアは息をついた。
あの『銀行屋』たちが書き溜めたものが、すべてこの部屋に保管されているのだろうか。
── こんなもの……、よく書けるわね……。
星の図形やよくわからない数式がいくつも現れて、見ているだけで頭がくらくらとする。