第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
物で机が封鎖されて場所が無くなったせいか、よく見れば部屋のあちこちには、床から生えたアリ塚のような本の集落が出来上がっている。
棚の近くで適度な高さを保って作られているのは、まさか今はあの書物の山を机や椅子代わりにしているということなのだろうか。
「はあ……、またですか。皆さん散らかしっぱなしで片付けていませんね。これでは、どこに何があるかもわからないではないですか……」
部屋の惨状を見て言った男の一言に、いつもこんな状態になるのかと、思わず突っ込みを入れたくなった。
男は散らかった机の周辺をいくらか見て回ったあと、ため息をついた。
「駄目ですね。杖なんて見当たりませんし、あっても埋まっているようです。新入りの方、ここで少し待っていてください。別のところから杖を持ってきますので……」
面倒くさそうに覆面の男が言って、ぶつぶつと小言を言いながら書庫から出て行った。
バタンと勢いよく扉が閉まる音が響く。
「行っちゃったね……」
『そのようですね……』
「一時はバレるかと思ったけれど、どうにかなったわ……」
どっと緊張感が抜けて、大きなため息が出た。
『王よ、このままあの者たちと共に行動するおつもりですか? こんなに距離が近くては危険では? 』
「何を言っているの? あの人たち実験がどうだとか言ってたわ。何をしているか探るチャンスじゃない! 」
『そうですが……、あなた様は恐くないのですか? あのルフの闇をご覧になられましたのに……』
アイムの声が響き、少し心が揺らぐのを感じた。
「……言ったでしょ? もう決めたって。
恐くないって言ったら嘘になるけれど……、この組織を探らなければ『銀行屋』たちの目的が掴めない。黒ルフのこともわからない。真実がわからなければ、ジュダルをここから連れ出すことだってできないわ」
『……あなた様は、「マギ」をこの組織から連れ出すおつもりなのですか? 』
ジュダルを闇に取り込んでいた、異様な『神事』の光景が脳裏をよぎった。
氷のように冷たい闇の感触も、すべてを呪うようなあの声も、思い出せば胸が締めつけてズキズキと疼き痛む。