第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「あなたはこっちですよ……。まだ、場所も覚えていないのですか? 」
新人指導を買って出た覆面の男に、呆れたようなため息をつかれた。
その男が向かい始めた右側の通路へと歩いて行くと、アーチ状の通路の入り口を越えた先にも、ランプのかがり火に照らされた薄暗い通路が続いていた。
先はそこまで深く続いておらず、奥には一つの扉があるだけで、右手に地下へ向かう階段がある。
男は階段を下りずに奥の扉へと向かい、その前で立ち止まった。
たどり着いた書庫と思われるその扉を開けると、暗い部屋の中にぽつぽつとランプの明かりが独りでにつき始めたから驚いた。
── 魔法道具かな……?
男と共に部屋の中へと入ると、ずらりと並ぶ書物が目の前に広がった。
壁いっぱいに本棚が並ぶ書庫の広さは、宮廷にある中規模の書庫と同じくらいだが、蔵書の数はそれ以上だ。
天井近くまで続く棚に入れられた書物は、古びたものから新しいものまで、ぎっしりと並んでいる。
── すごい、こんなにたくさん……。
書物の数に感心しながら、男の後ろについて部屋の奥へと足を踏み入れたとたん、部屋の惨状が目に入ってきてハイリアは言葉を失った。
本棚の合間に作られた、読書スペースと思われる広い机が並ぶ上には、山のように置かれた書物が、開かれたページがしわになることも気にされずに、滅茶苦茶に積み重なっている。
積み重なるその本の合間には、無理矢理スペースを作ったような場所に用紙が広げられ、何かを記述したようなあとが残されているのだが、そこにはインク瓶が倒れてしまっていて、紙はすっかり黒く染まってしまっていた。
あんな狭いスペースで、書き物をすまそうとするからだろう。
黒いインクはそこから机を伝い、流れ落ちたようで、床にまで黒い染みを作っている。
しかも、随分と放置されたのか、乾いたインクはカピカピになり光沢を放っている始末だ。
汚れた木目の床には、投げ捨てられたらしいグシャグシャに丸められた紙くずも散乱していた。
辺りにゴミ箱というものは、なぜか一つも見当たらない。
そのまま落ちていることも気にもされずに誰かに踏まれたのか、ぺしゃんこに潰れて床に張り付く化石のようなものまであった。
── きったない! 何なのコレ!?
あまりの散らかりように唖然とした。